神経を温存したセラミックアンレー修復

虫歯治療や審美修復において、「できるだけ歯を削らない」「神経を残したい」という考え方が、現代の歯科医療の中心となっています。
歯の神経(歯髄)は単なる痛みの感覚器ではなく、歯の生命力そのものを保つ重要な組織です。
その神経を守りながら、天然歯に限りなく近い美しさと機能性を取り戻す治療法として注目されているのが、神経を温存したセラミックアンレー修復です。
特に当院では、あえてデジタルスキャン(CAD/CAM)に頼らず、**熟練の技術によるアナログ印象(シリコン印象材を使用)**を採用しています。
この方法により、ミクロン単位での適合性を実現し、噛み合わせ・辺縁封鎖・審美性のすべてで高い精度を確保しています。
1. セラミックアンレーとは
セラミックアンレーとは、虫歯などで失われた歯の一部を覆うように修復する「部分被覆冠」です。
クラウン(全部被せ)よりも歯を削る量が少なく、インレー(部分詰め物)よりも強度と安定性が高い、両者の中間的な治療法です。
主な特徴
- 審美性:天然歯のような透明感と色調
- 生体親和性:金属を使わないためアレルギーや歯肉の変色がない
- 耐久性:高強度セラミックを使用することで長期安定が可能
- 保存的治療:歯質を最小限しか削らない
これらの特長により、奥歯の大きな虫歯や銀歯のやり替えなどに最適な選択肢となっています。
2. 神経温存の意義
神経を取ると、歯への血流と栄養供給が絶たれ、歯が脆くなります。
さらに、神経を除去した歯は感覚を失い、微細な異常(過度な咬合力など)を察知できなくなるため、破折リスクも増します。
したがって、可能な限り神経を残すことが、**「歯を一生使うための最大のポイント」**になります。
近年では、MTA(ミネラルトリオキシドアグリゲート)などの生体親和性材料を用いた「覆髄法」により、炎症のある歯でも神経を残せる症例が増えています。
3. CAD/CAMではなくアナログ印象を選ぶ理由
近年、歯科界ではCAD/CAM(デジタルスキャン)による補綴製作が急速に普及しています。
しかし当院では、すべての症例にデジタル技術を適用するのではなく、ケースによってはアナログ印象の方が優れていると考えています。
アナログ印象(シリコン印象)の強み
- 歯肉縁下の細部再現性が高い
スキャナーでは読み取りにくい歯肉の微細なマージン部も、シリコン印象なら正確に再現可能です。 - 唾液や反射の影響を受けにくい
湿潤環境下でも印象材が歪みにくく、精密な型取りができます。 - 技工士との連携による手作業の精度
模型上での微調整やマージンの確認を、技工士が目視で行えるため、最終的な適合性が非常に高いです。 - セラミック焼成時の収縮補正が可能
アナログ製作では技工士が素材特性を考慮して焼成を調整するため、装着時のギャップを最小限に抑えられます。
デジタル技術は確かに便利で速いですが、こと「精度」「噛み合わせ」「美しさ」に関しては、熟練の手技に勝るものはありません。
4. 治療の流れ
- 初診・診査診断
虫歯の進行度、神経の反応、歯周状態を診査します。
必要に応じてX線・CTを撮影し、神経を残せるか慎重に判断します。 - 感染除去と覆髄処置
虫歯部分を取り除き、神経に近い部位にはMTAやカルシウムシリケート系覆髄材を使用して保護します。 - 精密形成
歯の残存構造を最大限残しつつ、適切なテーパー・マージン形態を形成します。 - アナログ印象採得
シリコン印象材を使用し、歯肉圧排を行いながらマージン部まで正確に記録します。
この段階の精度が、最終的なセラミックの適合性を左右します。 - 技工士による模型製作と築盛
石膏模型上でマージンをトリミングし、セラミックを一層一層丁寧に築盛。
噛み合わせや隣接面を実際の歯列模型上で確認しながら製作します。 - 試適・装着
完成したアンレーを試適し、適合・接触点・色調を確認。
問題がなければ専用のレジンセメントで接着します。 - 咬合調整・研磨
装着後に咬合紙で確認し、噛み合わせを微調整。研磨を行い自然なツヤを出します。
5. セラミックアンレーの長期安定性
アナログ印象によるセラミックアンレーは、適合精度が非常に高いため、
- 二次カリエスのリスクが少ない
- セメント溶解による隙間発生が起きにくい
- 噛み合わせのバランスが長期的に安定
といった特徴があります。
特に、神経を残した歯は内部からの湿度変化に敏感ですが、精密な適合が保たれていれば歯質へのストレスも少なく、長期間健康な状態を維持できます。