予防歯科について
■第1章:保険の予防歯科が「中途半端」になる理由
1. 制度上の制限―健康な人は“対象外”
日本の健康保険制度では、「病気の治療」には保険が使えますが、「病気の予防」には使えません。
歯科の場合、「歯周病の治療」や「再発防止」を目的とした歯石除去は保険で行えますが、健康な人のメンテナンスは保険の対象外。
そのため、「予防歯科」と言いながら、実際には**“歯周病治療の一環”という建前**で行っているケースがほとんどです。
言い換えれば、制度の抜け道を使って“予防っぽい治療”をしている状態。
これが、保険の予防歯科が「なんとなく物足りない」と感じる根本的な理由です。
2. 時間と報酬の壁― 1人20分で“流れ作業”
保険診療では、施術1回ごとの点数(報酬)が国で細かく決められています。
その金額は非常に低く、時間をかければかけるほど赤字になってしまう構造です。
結果、ほとんどの医院では
- 1人あたり15~20分で終了
- 機械で歯石を取り、軽く研磨して終わり
という流れが一般的です。
もちろん医院側も限られた中で最善を尽くしていますが、精密なケアや長期的な予防までは手が届きません。
3. 道具・薬剤・技術の制限
保険診療では、使用できる機材や薬剤にも制約があります。
たとえば、
- エアフロー(微粒子パウダーで汚れを除去)
- 高濃度フッ素コーティング
- トリートメント剤での歯面保護
など、本格的な予防処置に必要なツールはすべて保険外。
そのため保険のクリーニングでは、
「歯石を取ったけど、なんだかザラザラする」
「口臭がすぐ戻る」
という不満が起きやすいのです。
■第2章:自由診療(自費)の予防歯科はここが違う
1. 目的が「治療」ではなく「健康維持」
自由診療の予防歯科は、保険の制限を受けず、**本来の意味での“予防”**を目的としています。
代表的なのが「PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)」です。
専用の機器と研磨ペーストを使い、歯面のバイオフィルム(細菌膜)を徹底的に除去します。
これにより、虫歯・歯周病・口臭のリスクを大幅に下げることができます。
2. 時間をかける=質が上がる
自由診療では、1回の施術に90分をかけるのが一般的です。
1本1本の歯を丁寧に清掃し、着色や歯ぐきの中まで細かくケアします。
また、
- 咬み合わせの確認
- 磨き残しチェック
- 食生活やブラッシングのアドバイス
といった**“生活面からの予防サポート”**も行うため、根本的な改善につながります。
3. 最新技術を自由に導入できる
自由診療では、医院ごとに最新機器や高品質の薬剤を導入できます。
たとえば、
- エアフロー:微粒子で着色を除去し、歯面を傷つけずにツルツルに
- ナノトリートメント:歯の再石灰化を促進し、ツヤを与える
- 高濃度フッ素ジェル:虫歯予防効果を長期間持続
これらの処置は見た目だけでなく、科学的に再発を防ぐ効果があります。
■第3章:保険と自由診療、10年でどれだけ差が出るか
| 項目 | 保険診療の予防歯科 | 自由診療の予防歯科 |
| 目的 | 治療(歯周病の進行抑制) | 予防・審美・健康維持 |
| 所要時間 | 15~20分 | 90分 |
| 使用機器 | 制限あり | 最新設備可 |
| 効果の持続 | 1~2週間 | 1~2か月以上 |
| 長期コスト | 虫歯・治療費が増える | 治療不要の状態を維持 |
10年単位で見ると、
保険中心の人は治療費が増加しやすく、自由診療中心の人は治療費が減る傾向にあります。
つまり、自由診療の予防歯科は**「高いようで、結果的に安い」**のです。
■第4章:Q&A ─よくある疑問とプロの回答
Q1. 保険でも上手な先生なら同じ効果が出るのでは?
A. 技術的には上手でも、制度上できる範囲が決まっています。
時間・薬剤・道具に制限があるため、どうしても限界があります。
Q2. 自費のクリーニングって、ぼったくりじゃないの?
A. 内容を見れば明らかです。
使用機材・時間・リスク管理・アフターケアなどを考えると、適正な医療サービスとしての対価です。
Q3. 保険でPMTCは受けられませんか?
A. できません。PMTCは“予防目的”の処置なので、保険適用外です。
Q4. どれくらいの頻度で受けるべき?
A. 理想は3~4か月に1回。
ただし、歯周病リスクが高い方は2か月ごとでも良いでしょう。
Q5. 自由診療の費用に差があるのはなぜ?
A. 使用機材や技術差、仕上げの内容(トリートメントやフッ素など)が異なるためです。
Q6. 自由診療を選ぶ目安は?
A. 「見た目をきれいに保ちたい」「口臭が気になる」「長く歯を残したい」方は、迷わず自費が向いています。
■第5章:まとめ― “安い”保険診療の代償
保険の予防歯科は、「安くて短時間で済む」というメリットがあります。
しかし、それは“今だけ”の安さです。
一方で、自由診療の予防歯科は、時間も費用もかかりますが、歯を守り、治療費を減らす長期的な投資です。
日本の保険制度はまだ「病気を治すため」の仕組みです。
本当の意味で“予防”をしたいなら、自分で選ぶしかありません。
